「でもよぉ・・・ミナ、おかしいよなぁ・・?」
 日も段々と頭の上へと上がり、影も短くなってきた頃、
ミナは自分より縦も横も 一回りも大きな青年と並んで歩いていた。
細い裏道を幾度も回り、二人は昨日爆破された、壱番街を目指し、
途方もなく とぼとぼと自分のつま先を追いかけていた。

「何が?」
「なんで、俺達だけ・・・よりよって今日の当たりが、爆破された壱番街なんだ?  回収するものなんて何も残っちゃいないぜ。
 しかも壱番街というとゲートの鍵なきゃ  入れないんだぜ?・・・・おい、ミナ!!聞いてんのか?」


 ミナの仕事・・というか、組織というか・・・生活費を稼ぐための手段は
マテリアとよばれる宝石の原石を集めることであった。
マテリアとは持つものに幸福をあたえるだの、願いをかなえるなど、上流社会の中で 高値で取引されていた。
だが、ミナには理解できなかった。
どうせ、もとはただの石なのだ。
そんなものを大切に しようとするぐらい、今のこの世の中は荒んでしまったのだろうか。
そんな 石の他に大切な物はないのだろうか・・・。
考えてはみたものの、このスラム街にいる者のほとんどが、上流社会を見たことが ないのだ。
実は、下の世界・・スラムの方が気持ちの余裕はあるのかもしれない。


「あ・・ごめん・・・。」
「またかよ・・・。」
細い道を、身を縮めて進み、薄明かりある方を目指していく。
挟まれているレンガ造りの、建物の壁はひんやりと冷たく、多分、今が一番暑い時間帯 ということもあり、心も体も冷やしてくれた。
しかし青年はうんざりしたように、元は白い、けれど、牛のように所々、点々と黒く 汚れたTシャツで汗をぬぐった。

「グラン・・・ほんとうにこっち?」
ミナはいつまでたっても出口の見えない、この裏路地にしびれをきらしたように 藍色の瞳でグランを睨んだ。
「・・・・・・ミナ、お前迫力あるよな・・・いつからそんなに、ひねくれた女に・・俺を信じろ!!いや、絶対こっちだ!!」

信じろ、か・・・・。

ほんの少したじろぐグランはミナの頭を、ごつい手でぽんと撫でてやった。
「大体・・・・なんで、あなたと一緒の班なの・・・。」
「運命♪」
「はぁ・・・。」
 ふうっと、息を吐く彼女の表情は、朝から長い時間歩きっぱなしのせいか 疲れの色がでてきていた。
今朝、老人の家をでてき、その後、ミナの住んでいる参番街(さん)東に位置する 雇い主、
いわゆるボスの元に今日の原石回収担当地を(仕事)をもらいにいった・・・
それが、およそ朝の七時程度。そしてグランと同じ班(今回は二人だったが)だの 壱番街に行けだのと、細かい指令を受けたのが八時・・・。
そう考えると、向こうを出発してから、かれこれ三、四時間はかかっているということになる。
迷路のような曲がりくねった舗装されていない裏通りは水道管から水が漏れ、 そのちいさな水たまりに、
ネズミが数匹身をよせている光景がみられた。
雑草もあちこちに生え、生ゴミ臭もすごいことから手入れが行き届いていないことは 明らかに目にみえた。


「ねぇ・・・グラン?」
「何?」
「あなた・・・年いくつ?」
短い沈黙の後、グランが言った。
「17・・・・ぐらいだと思う。俺・・捨て子だし、親の顔も全然覚えてねぇ・・・。  今のボスの所にきたのが大体・・・
 10くらいって聞いてたから、多分それぐらい  じゃないかと思う・・・。」

こうやって、自分の年を知らない、親を知らない者など、下の世界のスラム街には 溢れるほどいるのだ。
ミナ自信、自分はどこで生まれ、一体いつから父、母がいなかったのかなど 全くわからない。
誰が知っているのかさえ知らない。
皆、自分のことを一番わかっていないのは自分なんだ、とよく心に留めていた。


「ミナは?」
「・・・・・私も自分のこと全然知らない。でも、おじいちゃんが15くらいって・・・。」
「そうか・・・。」
幸せな日々を思い出しても、悲しくなるだけだ。
むしろ、そんな昔のことなんて 知らない方がいいのかもしれない。
「まぁ・・・でもこっちの、下の世界じゃ家柄も年も何も関係ねぇ。みんながみんな 好き勝手に動いて、好き勝手に街を爆破しているだけさ。」
ミナはぎゅっと、唇を噛み締めた。
「誰も人のことなんか考えちゃいねぇ。自分が生きるので精一杯だ。だから  治安が乱れ、アバランチみたいな集団ができるんだけどよ。」
「いつからこんな・・・」
「さあな。でも、いつだって一緒のことあるだろ?何かを大切にしたいっていう気持ち・・・。  
 この気持ちは何年経っても、いや、何十年経っても変わらないものなんじゃないのか?」
ミナはこくりとうなずいた。が、ミナは今、何を大切にして生きているのか わからなかった。
妹のことが、ふと頭に浮かんだ。
でも、それは大切にする、というよりは、自分が守らなくてはいけない存在のような気がした。


「グランは、何を大切にしているの・・・・?」
「俺は・・・・・。」
 言葉の最後の方が、よく聞き取れなかった。
「どうしたの?」
「っ・・」
グランは自分の顔を隠す様に下をむいた。
ミナは不思議に思ったが、これ以上の質問はしなかった。

「あ・・・。」
その時、急に狭い道に光が差し込んできた。

「着いた・・・」

そこは、壱番街ゲートの入り口だった。










連載2回目です。マテリアだの、ゲートだの
説明が・・・(泣)サイト初の夢のわりには、たくさんの
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次の次でエアリス登場です!!(汗