壱(いち)番街が爆破されたという。
彼女がその話を耳にしたのは、ちょうど床について間もない時だった。

目の前の戸から漏れてくる音には、人々の焦りや不安が入り混じった声。
静けさを破る爆発音。

彼女はゆっくりと寝返りをうつ。
明日、朝起きたらひどい騒ぎになっているだろうと思い、深くため息をついた。

真っ暗な天井が目に写る。
いろいろな考えが頭の中に浮かんでは消え、また浮かんでは消えていった。
明日のことを考えるのはやめよう。
明日の保障なんてどこにもないのだ。
薄い布団をかけなおし、
彼女は静かに目を閉じたのだった。




朝。
意識がはっきりして、彼女は体を起こすとゆっくり部屋を見渡した。
まだ頭がふらふらする。
耳が痛くなるほど、しんとしていて、五感全てが鈍ってしまったのかとさえ思った。



小さなベッドと脚が一本欠けている机。
そして二脚の椅子。
大丈夫。
昨日と何も変わっていない。
今日を無事に迎えられた。いや、迎えてしまったのだ・・・。

布団の傍に置いてあるつま先がやぶれている靴。
横でまだ深い眠りについている妹。
母の形見の首飾り・・・。
十畳程度の狭い空間には、自分と妹しか存在しない。
だから何というものではないのだが なんとなく違和感を感じた。

昨夜、着替えないで寝てしまったからだろう。
汗っぽい感じと寒気が体を包んだ。
足元が冷えるので、小さくなって寝ていたせいで 体のいたるところが痛んだ。
隣で寝息をたてている妹に自分の布団をかけてやると、彼女は足早に部屋の 出口へと向かった。



戸が軋む音と共に外に出ると、まだ薄暗い街の中では、昨日爆破された壱番街からの 避難者が多く、
ぱっと見ただけでもテントや通行人の数が増していたのがわかった。
砂埃と人の嵐を通ることは避けたかったが、今自分が立っている場所にでさえ 気管に詰まりそうなほど
塵(ちり)や埃がたちこめている。
ミッドガル。
機械と戦に占領された都市。
彼女、ミナは小さい時からここのスラム街で暮らしていた。
力強く根付いたスラム街。
ミナはずっと、自分の母は妹を産んですぐに、病で倒れたと聞いていたが、
政府の反逆者だと疑われ、殺されたということがわかった。
そんな憎しみと欲望に包まれた街。


もう長い間、人々は空を見ることを忘れてしまっている。
このスラム街は鋼鉄で造られている天井の下に存在している。
そのプレートとよばれる天井の上では上流社会。
いわゆる貴族、政府、大企業が存在する。

プレートがあるせいで日光はほんの一筋ほどしか、降り注がない。
しかし、その中でもこのスラム街は強い根をはって生きてきた。
彼女は死を恐れてはいなかった。
いや、むしろ死を待っていたのかもしれない。
なぜ自分が生きているのか。
毎日そんな想いをもって暮らしている彼女にとって死など 恐ろしくもなんともなかった。
この街の人の中でも彼女と同様な考えを持つものはたくさんいた。
下ばかりみている街の住民に対して、希望だの夢だの無縁な言葉だった。

大切なものは、もうとうの昔になくしてしまったから・・・・・。






「おはよう。昨日はよく眠れなかっただろう?」
まだ、健在するなかで、寂しくひっそりと建っている木で造られた店らしき建物。
ゆっくり段差の低い階段を上がり、中に入ると、白髪の柔らかな髪をした老人がカウンターの奥に腰掛けていた。
元々、バーを経営していたこの家は人が頻繁に出入りしていたせいか、どこか 温かい雰囲気が漂っている。
「ええ・・・まあね。壱番街が爆破されたんでしょ?また、アバランチ?」
彼女は老人の前にある、背の高い椅子に座った。 傍にあった新聞に手をのばすと、最初の何ページかをパラパラとめくってみた。
見出しには大きく「壱番街爆破!!」と書かれており、隣の写真は爆風で崩壊した 建物や電柱が横たわっていた。
「アバランチかどうかは知らぬ。ただ、プレートを支える支柱が危ないという話だ。」

ミッドガルの繁栄の象徴・・・。
この光と影をつくりだした大企業・・・。
『神羅』
彼らがミッドガルを造り、プレートを造り、下流社会の者達を下に追いやり・・・。
今では政府よりも強い権力を持つ。
アバランチとはその神羅に反対する過激派グループといえばいいだろうか。
無差別に街を爆破し、恐喝し・・・。
この全てのスラム街の住人、壱番街(いち)から仇番街(きゅう)の者達みな 神羅、アバランチのどちらに賛同。
ということはなかったはずだ。 どちらかに傾けば、もう一方からの攻撃がまっている。



「そう・・・。」
何も感じていないようなその目は、澄んだ藍色だった。
「関係ないっていう顔じゃな?」
「ええ。」
迷うことなく答えた。
「死ぬのは、怖くないわ・・・・。」
老人は何と声をかけたらいいのかわからなかった。
なるべく、その話題から離れようと、視線を遠くにとばした。
奥の戸棚に置かれている花瓶が花もなく、寂しそうにこつり、と横に倒れた。

「・・・・・。そういえば、チビちゃんはまだか?」
「ぐっすりよ。」
これから仕事にでる彼女は、まだ幼い妹をこの老人に預けている。
「今日は早めに出ないと、遅れそうね・・・」
新聞から顔をあげると、木で造られている、古い部屋の時計に目を走らせた。 彫刻が美しい、鮮やかなものだ。
「行って来る。」
ゆっくりと立ちあがり、椅子の背にあった上着を羽織ると彼女は戸に手をかけた。

「・・・ミナ!!」
「・・何?」
急に呼び止めたはいいものを、何を言うつもりだったのか言葉が出てこない。
「・・・あ・ああ・・・。なんでもない。気をつけてな。」
「・・・うん。」
老いとは虚しいものだな。そっと老人は呟いた。




いつもと変わらぬ場所のはずだった。
なのに、昨日の事件のせいで人が多く前に進めず ミナは やっとのことで、一歩を踏み出した。
べっとりした機械油の匂い。体の芯に響く工事現場の騒音。
いつもと同じだ。
硬く舗装された道路には何か目的をもってすすむ人・・・。
建設された、ビル、工場・・・。
揺らぐ不安、奇妙な安堵・・・。

でもどうしてだろう・・・。今までこんな気持ちになったことはなかったのに・・・。
ずっと自分の気持ちに素直になれなくて、いつも抑えつけて暮らしてきた。
自分をださず、誰を信じることをせず・・・。
これでいいんだ。自分に言い聞かせ、前に進もうと一歩一歩踏みしめていった。














サイト初の夢小説です(汗
まだ肝心のFFキャラがでてきてないんですが・・・。
設定としてはこのあとエアリスが登場予定です。
いや・・・。エアリス中心の話なんですけどね(汗(でも第3話ぐらいになってしまうかもしれないです・・・・・)
ミナが今後どう変わっていくかを見てほしいです♪
この小説・・・一応国語の宿題で書いたものなので(ぇ
まぁまぁ進みは他より早いと思います・・・。