フィガロへ






ナルシェを出てから、南に進むと砂漠の王国、フィガロがある。
ナルシェの宿で少し休み二人は出発した。

「わぁ・・・。」
ティナから感嘆の声が漏れる。
光をたくさん溜めた太陽。帯となって二人を包む。
朝は、何もかもが生まれたばかりで ティナには全て新鮮に思えた。
群れで飛ぶ鳥。朝露にぬれた花。

「おいおい・・・。なんでそんなもの・・・。毎日見られるものじゃないか。」
とロックは足元にあった赤いキノコを踏みつけた。
彼はキノコが大嫌い。小さい頃庭に生えていたキノコを食べ腹痛をおこしたのだ。
それなのに、ティナは踏みつけられたキノコを優しく撫でた。 細い指でカケラを集める。
そして、ロックの手にのせていった。
「私・・・。操られていたみたい。ずっとね・・・。だから、自分の意思で・・・  
 こんなふうに自然とか、風とか感じたの、久しぶり。」
ティナが優しく笑いかける。ロックは慌ててキノコのかけらを地面から拾い集めた。
だが、ロックはこの一瞬で、今までの疲れがとれたような気がした。
こんな気分になったのは久しぶりだった。



森に入ってもティナの興奮は収まらなかった。あちこちで鳥に話しかけたり、
しゃがんで花を見ていたり。
「はい!ロック。」
ティナがロックに渡したものは小さな花束だった。
赤や黄色。ピンクの花たちが 朝日を浴びて光っている。
「・・・ティナ・・・。」
彼は少し呆れた表情でティナを見た。
「いくつ?」
「多分・・・18だったような・・・。」
「・・・・若い・・。」
ロックは、ティナから渡された花束をまじまじと見つめた。

フィガロまでの道は、そんな険しい道ではない。
ただ厄介なのは、砂漠。照りつける太陽と戦わなくてはいけない。
それに、二人とも充分に休んではいないのだ。 体力、精神共に限界がある。



「ティナ?大丈夫?」
時間が止まったように、二人はその場に立ちすくんでいた。
「・・・ええ・・・・・。」
「ほんとに?」
「大丈夫・・・。」
小さく微笑むティナの額にも、大粒の汗が流れる。



粒子が細かい砂が二人の目を刺激する。
途中サソリの化け物にも出会い、苦戦を強いられた。
風はやむことなく、砂を運んでくる。

ロックは自分の上着をティナの頭にかぶせた。
「こんなものしかないけど・・・。」
ロックはすまなさそうに、頭をかく。
ぶかぶかな上着を嬉しそうにかぶる彼女を見ていると、
何故かやりきれない 思いがするのだった。
「ありがと。」
ここで、ロックは何か違うような気がした。
普通もっと違う反応があってもいいような 気がするのだ。
異性に会うのが久しぶりだからだろうか?
ティナはまだ、幼いからだろうか?
パッと頭にこないのはなぜだろうか?
いくら考えても、その答えは浮かばなかった。
「・・・どうしたの?」
「いや・・・別に・・。」
ロックは冷静を保とうとしていた。

鏡の中にでも入ってしまったようだった。
足元の砂だけが教えてくれる。 あの場所へ・・・。




太陽も沈みかけてきた。
ティナを支える腕も力が入らなくなってきた。
この世界に二人だけになってしまったような気がした。
何もが消えてしまうような気がした。


「おっ!」
明るい声をあげたロック。
彼が指差す方向には、砂漠の城フィガロが小さく見えた。
「フィガロ・・・。」
疲れきったティナの体は今にも壊れてしまいそうだった。
会話をすることなく、一心不乱にフィガロ目指して歩き続けた。
砂を踏み固め、足跡をつける。
この動作を一体どれくらい繰り返したのだろうか?



肌寒くなってきた頃、フィガロに明かりが灯る。
あと二キロ程の距離だ。
「あっ・・・・!」
その時だった。ロックの足元に点々と赤い血が垂れている。
ロックはナルシェでガード達と戦って傷つけた脇腹から、血を流していた。
ナルシェから発つ時、応急処置しかできなかったからだ。
何時間もの疲労とティナを支えるので、傷口が開いてしまったのだ。

「あっ!ロック、大丈夫?」
ティナの焦りが感じられる瞳に目が合わせられなくて、ロックは唇を噛み締めた。
カラカラに乾ききっていたので、わずかに血がにじんだ。
「っ・・・大丈夫だから・・・。」
傷は広く、深かった。
ロックは辛そうに目を細める。
ここで、踏みとどまるにはいかない。
砂漠の夜の温度は他の土地と比べ低いのだ。

ティナは意を決して、膝をついた。
「え?」
「・・・・じっとしていて。」
ティナは傷口に手をかざした。
目をつぶり、外界から身を切り離し、自分だけの世界をつくっていくように。
「・・・・・・ティナ?」
「静かに・・・・。」
どの位時間が経ったのだろうか。ティナは動かない。

「・・・・ケアル・・・・・」
ぱっと目を開いた瞬間、辺りが緑色の光に包まれる。
「な・・・なんだこれ・・・」
見たことのない光だった。
傷口に一瞬にして、光が集まる。その眩しさに、ロックは思わず目をつぶる。

「・・・・・・・。」
暖かくなった。ティナはまだ動かない。

「・・・・・・・・・・・はい。」
幻の世界からティナの声で覚めていく。
やがて、辺りはなにもなかったように 夜の砂漠になっていた。
それと同時にロックの傷は形もなく消えていた。
ティナはゆっくりと立ち上がり、ロックに笑いかけた。
「ね?大丈夫だよ。」
ロックは驚きが隠せなかった。
今、目の前で一体何が起こったのだろうか。
この少女、ティナの力、魔法が発動された瞬間だった。
傷の痛みはなく、どこも異変はない。
ロックは一歩だけしか前にいないティナを改めて、自分とは別世界の人間なのだと感じていた。



先を歩くティナに、ロックは声をかけられなかった。
月明かりに照らされたフィガロはだんだんと大きく見えてくる。

「どうしたの?」
静けさを破る声がした。
様子がおかしいロックに、ティナは振り向く。
「っ!ティナ・・・・。」
いきなりの会話に緊張するロック。
足元に目線をやると、細かい砂粒に自分の足が埋まっているのがわかる。
「ん?・・・・ほら、もうすぐだよ。」

五歩程進み、ティナは足を止めた。
「・・・・さっきの気にしてる?」
「・・・?さっきのって??」
正直、何のことを聞かれているのかは、はっきりとわかる。
しかし、今は、一番触れたくない話題だった。
ティナの魔法の力に対して、自分はどのように接していけばいいのか、
どうすれば 彼女を傷つけずに済むか、気がかりでしょうがなかった。


少しの間をおいて口を開いたのはティナの方だった。
「ロック・・・。私の魔法の力は・・持って生まれたものなの・・・。」
「え?」
意外だった。てっきり、ロックは操られていた帝国時代にケフカかガストラかが、
ティナに埋めこんだものだと思っていたのだ。
「だから・・・なるべく、普通にしていてほしいんだ・・・。ごめんね。
 こんなこと 言って・・・。でも、私自身、わからないこと、まだたくさんある。 ちょっとでも、
 知りたいけど・・・今はまだ・・・。」
「まだ?」
「知らない方がいいのかもしれない・・・。」
それだけ言うと、ティナはうつむいてしまった。
昼間は砂を休むことなく運び続けた風だったが、今は肌をひんやりと冷やし流れてゆく。
高低差が激しい砂漠の丘。
もうフィガロが近い証拠だった。
「・・・・大丈夫。」
「・・・・ありがと。」




黄金の砂漠にそびえる王城、フィガロ。
古くからの歴史を誇るその城は、不毛の地のせいで、農業などは盛んではないが、
代わりに世界最先端の機械工業を発達させた。
その先端技術が城の細部まで伝わり、豊かな生活を感じさせている。


夜も遅く、周りも見えぬ暗さだったが、門番が手にしていた松明でぼうっと辺りが照らしだされる。

「誰だ?・・・!ロック!久しぶりじゃないか!・・・その娘は例の・・?」
重そうな鎧を着た一人の兵士はロックに親しげに話しかけた。
「ああ・・・。ところで、この国一のプレイボーイはどこかな?」
ロックはにやりと笑い、ティナの手を引いた。
「陛下は奥の、大広間で待っているはずだ。ささっ!通るがいい。」
門番と兵士は道を開け、頑丈な門を開いた。
「行こう!」

あれが月っていうんだ・・・。
ティナは空に浮かぶ、月に心を奪われていた。


























FF6シリーズ第4作目です。わかりにくいので今回からタイトル分けました。
さて、初めてケアルを見てびっくりするロック(笑)
全然話が進んでおりません!!
管理人が初めてティナの魔法を使ったときは・・・たしかエドガーもいたかな?
そして次回はエドガーの登場です。はわわ・・・。
忙しくてなかなか更新できなかったサイトの方ですが、ようやく生き返ってきた感じです。
がんばって書かなきゃなぁ・・・。