ハイウインドの厨房で・・・・





「るんるん♪〜・・・」
エアリスは厨房で何かを作っている様だ。ボウルの中の物体は、食べられる物なのか不明なのだが・・・。
「あれ?エアリス・・・何作ってんの?」
厨房にナナキとユフィが、ぞろぞろと入ってきた。ナナキもユフィも外で、活動していた為
空腹であった。(しかも、真っ黒。)
「何それ?」
「やーねっ!アップルパイよ。アップルパイ!!」
「・・・・・え?」
ナナキとユフィは、顔を見合わせた。最近、二人の息がよく合うのだ。
「ナナキ好きだったでしょ?」
ナナキの好物ベスト3は、アップルパイ・グラタン・コスモキャニオンのチョコとなっている。
どれも子供が好むものだ。(ナナキは精神的に15歳くらい)
「わぁ〜い!!アタシ食べたかったんだよねぇ・・・」
ユフィは、折鶴を振り回し飛び上がって喜んでいる。
「え・・・?でも、エアリス・・・・料理できるの?」
「できるわよ〜!!だってスラムにいた時、私がご飯作っていたのよ!」
確かに。エアリスは、エルミナと過ごしていた時に料理は自分が作っていたという。
だが、実際に彼女の手料理を食べた者は誰もいない。
ハイウインドでの、メンバーの食事は、いつもティファが作っていたのだ。
だから、エアリスは料理を披露することがなかったのだ。
「た・・・確かに。」


エアリスお手製のアップルパイは、オーブンの中でいい具合に焼けてきている。
「さ!召し上がれ。」
「いっただっきまぁ〜す!!」
二人は大きく切った、パイを口に運んだ。

「おいしぃ〜」
「うんっ!すごくおいしいね。」
「でしょ〜!」
これで、エアリスは料理が出来ると証明されたのだ。(ほっ)
・・・と、そこへ、買出しに行っていたメンバーが戻ってきた。
「ただいまぁ〜」
ティファは、大きな紙袋を机の上に置いた。ポーションやらエーテルやらが、たくさん入っている。
「ん?何の匂いかしら・・・・?」
匂いに誘われて、バレットも入ってきた。バレットが入ってきたことで室内の温度が
1、2度上がった気がする。いかに、バレットは厨房からはみ出しそうなのだが・・・。
「ちょうどよかった!今、アップルパイ作ったけど二人とも、食べる?」
「あっぷるぱい?!」
バッレトも、ティファも目を見開いて驚いている。
「うん!すごくおいしいよ!」
ユフィは、満足そうに口を拭いた。確かに、初めは驚くであろう・・・。

バレットとティファは一口ずつパイを食べた。
「〜〜〜〜〜っうまいっ!!」
「・・・ほんと」
<・・・くっ・・・ほんとにおいしい・・・。もしかしたら、私のよりも?>
ティファは唇をかみ締めた。これまで、ティファは自分の料理を褒められ続けていたのだ。
ティファは、エアリスに料理の王座を奪われたような気がしていた。
「ん?なんだ?なんだ?」
シドが煙草を吸いながら、厨房に入ってきた。
「あのね、今エアリスが作ったパイの試食会してるんだよ!」
シドは、渡されたパイをまじまじと見つめた。
「エアリスが作ったのか?」
ナナキはテーブルの下からシドを見上げた。
「そうっ!ねっティファ!!」
「う・・・うん」


                                       パクッ
「う・・・うまい!!こっ・・これは・・・ティファのより、うまいかもしれねぇぞ?!」
「だよね〜おいしいよねぇ〜〜」
みんなが、エアリスのパイを絶賛する。
「ハッ!!」
バレットが気づいた時にはもう、遅かった。ティファはリミットMAXになっていたのだ。

          ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・

「いっ・・・いや。そりゃあ・・・・ティファの飯も、う・・・うまいよなぁ?」
「・・・・うん。ティファの料理大好き!」
必死になって、ティファの怒りを静めようとする仲間達・・・・。

そこへ、いつも重要な時にいないケット・シーがやってきた。
「なんやみなはん。どないしたんですか?」
ナナキがテーブルの下から、すごすごと出てきた。
「実は・・・」


「ということは・・・・簡単ですな」
ケットがポンと手を叩いた。
「へ?何が??」
全員がケットの話に、耳を傾けた。いつもは、ほったらかしにされて無視されているのに・・・。
どれほどの危機だったのだろうか。

「つまり、ティファはんのパイか、エアリスはんのパイか、どっちがおいしいんか
ここにいない、クラウドはんに決めてもらえばいいんやないでしょうか?」
エアリスはうつむいた。
「べ・・・別にそんなんで作った訳じゃないのに・・・」
一番この提案に、賛成しているのはユフィであった。
「いーじゃんっ!いーじゃんっ!!ねっティファ。」
ティファは頷く。
「ええ・・・・かまわないわ。」
「ええーー?!そんなぁ〜っ!!」
「んじゃ・・・食後、クラウドに二人のパイを食べてもらうと・・・」
バレットは、残りのパイにラップをかけた。シドもバレットもこの案に賛成らしい。
「・・・・・じゃあ・・・準備しないとね」
ティファは指をポキポキならしながら、厨房を出て行った。





それから・・・食後。


「ねぇ?クラウド!!アップルパイ食べたくない?」
ユフィはクラウドに尋ねてみた。だが、クラウドは・・・
「悪いが、腹は減っていない」
クラウドの言葉を聞いた途端、メンバーは凍りついた。
そうだったのだ。クラウドがパイを食べたくない。と言った場合どうすればいいのか。
あの、殺意に満ちたティファをどうやって、なだめれば良いのか・・・。
「どうかしたのか?」
クラウドはイマイチ、状況がのみこめない。
「あっ・・・いやぁ・・・別にぃ・・・」
「ほっ・・ほらよ!クラウド!超高級アップルパイだぜ!」
シドは、クラウドの言葉を無視して皿にのせたパイを出す。
「だから・・・食べたくないって・・・」
シドは、更に無視し続ける。

「食べるわよね♪・・クラウド・・・。」
ああ。嵐の前の静けさ、というものなのか・・・。ティファは爆発寸前である。
それを見た、仲間達は一歩ずつ後ずさりしていく・・・。
「どうしたんだ?ティファ?」
「いいから、食べなさい!!」
これ以上、ティファを怒らせないでくれ。そう祈った仲間たちの祈りが通じたのか
クラウドは、フォークに手をのばした。

「・・・いただきます。」
クラウドが食べた方は、エアリスが作ったパイだった。
「んで、お味は・・・?」
「シド?これ本当に、高級なのか?なんだかパサパサしているんだが・・・」
その場にいた者達は、耳を疑った。あんなに皆が、おいしいと絶賛していたパイなのに・・・。
「ピキッ」
「え?何の音?」

「んで、こっちはと・・・」
クラウドは、ティファが作ったパイを口に運んだ。
これで、クラウドがおいしいと言えば仲間達の危機は回避されるであろう。
おいしいと言ってくれ!そんな、仲間達の願いは通じるのだろうか。
「どっ・・・どう?」

「ん〜・・・どっちもどっちだなぁ・・・。なんか、リンゴが甘すぎだし・・・」
「ピキッ」
あ〜・・・。やってしまった。クラウドは、ティファの究極リミット技、ファイナルヘヴンをくらうであろう。
その場にいた者、だれもがそう思った。
が、その時・・・。
「ちょっと待った!!・・・こっちはどうだ?」
バレットが、厨房から可愛く飾られたもうひとつの、パイを持ってきた。

ユフィが小声で話す。
「ねぇ・・・どういうこと?そのパイは一体・・・?」
「いや、わからねぇ・・・。ただ、厨房に置いてあっただけなんだ。これでティファの爆発の時間稼ぎができると、思ってな・・・。」

という訳で、誰かが作った(買った)パイをクラウドは食べることになった。
「はぁ・・・。・・・。」
しぶしぶ、クラウドはその謎のパイを食べた。

一瞬の沈黙・・・。
「やっぱ、ダメか・・・」
シドはため息をついた。
「なぁ・・・これ、どこで買ってきたんだ?」
「は?」
「うまいぜ・・・これ。」
「え・・・」
予想外だ。クラウドが、謎のパイをまずい、と言う。そして、それよりも二つのパイの方が
ずっとおいしい、と言うハズだったのに・・・。
「ピキッピキッ」

「おい、誰か厨房にあったパイを知らないか?」
今まで、パイ戦争の話に出てこなかったヴィンセントだ。
「え・・・それならここに。」
ユフィはテーブルの上にある、一番小さい皿を指さした。
「味はどうだ?クラウド?私が作ったのだが・・・。」

本当に一瞬の沈黙・・・・・・・・

「えぇぇ〜〜!!」
有り得ない。ヴィンセント?あの、いつも棺桶に入っていて、暗いオーラを放っている
ヴィンセント?なんか、別世界の異人の様なヴィンセント?
一体どこで、どうやって料理の技を取得してきたのだろうか。
それを知る者は誰一人としていない。・・・というより知らない方が良いかもしれない。

ティファはもちろん、対戦の為に作った訳ではないと言うエアリスも怒りを抑えていた。

「エアリス?・・・ティファ?」
ユフィは怖がりながらも、二人の顔を覗き込む。
「ヴィンセント。このパイ食べてみろよ・・・。ひどい味だ・・・。」
「ピキピキピキッ!」
その瞬間、二人の怒りは爆発した。(当たり前だよ・・・。)
仲間達はその場を速やかに離れる。

ティファは究極技ファイナルヘヴン。エアリスはリミット技が全て回復系なので、
究極魔法、アルテマ・・・・。


別室で仲間達は・・・。
「ま、しょうがね〜よなぁ・・・」
シドは少しがっかりしたように、言った。
「ん〜でも、どっちが選ばれるのか見たかったなぁ・・・。」
とユフィ。

今回、一番気の毒だったのは多分クラウドであろう。
確かに、エアリスとティファの気持ちを考えれば悪者になってしまうのだが
彼は二人が作ったと知らずに、しかもパイを食べたくなかったのに・・・。

ハイウインドの厨房にはこう書かれた紙が貼られていた。
それは、真実を知ったクラウドが書いたものであった。


           「謎多きヴィンセント入れるべからず」






ティファとエアリスだったら・・・。皆様はどっち派でしょうか?
バレンタインのチョコと迷いましたが・・・。
やっぱり、アップルパイかと思いまして・・・。