季節は春。やさしく風が吹き、花の香りが辺り一面に広がる。
誰もが優しい気持ちになれて、和ませてくれる春。
ヴィンセントは顔に似合わず、春が好きだった。
「ねぇ?なんか、ヴィンセント、今日機嫌よくない?」
風が吹いていても寒くなく、ポカポカと過ごしやすい天気だった。
桜が咲き始め、虫たちも活動している。
ここ、ハイウインドの中でヴインセントは外を眺めていた。
「ん?ぞぉがなぁ・・・・。」
ティファとユフィは微笑んでいるのか、いないのかハッキリしない ヴィンセントの顔を傍で見ていた。
ユフィは春が大嫌い。理由は簡単。この会話を聞けばわかるだろう。
彼女は小さい頃から、ひどい花粉症なのだ。
ユフィだけでなく、父親も母親も皆そうだった。
鼻詰まり、赤く腫れる目、そして・・・くしゃみ。
「くしゅんっ!!」



しかし、こんな辛い思いをしているのはユフィだけでなかった。
クラウドもひどい花粉症に悩まされている。
彼は・・・・もしかしたらユフィよりひどいかもしれない。
くしゃみをしたら、止まらないのだ。だから彼は一切、布団を干せないし
花粉が舞う場所へは足を踏み入れることができなかった。



「ヴィンセントは・・・・平気なのかしら?花粉症。ヴィンセントって何年ぶりかに
外に出てきたじゃない?よく耐えられるなぁ・・・って。」
「さぁ・・・。」
二人の会話は聞こえていないヴィンセントはうっとり外を眺めるだけであった。






――――――――――――― そして次の日



この日も昨日と同じく眠気を誘う暖かさ。そして、花粉も舞う・・・・。
今日のメインパーティーは、クラウドが入っていない。
花粉症により、外出不可能。
ということで、ヴィンセント、ナナキ・・・・そしてユフィ。
かわいそうに・・・。彼女はシドにじゃんけんで負けてしまった。
「は〜くしゅんっ!!くしゅんっっ!!」
マスクと目薬を重宝し、ユフィはヴィンセントの後へと続く。
「あ〜目ががゆい・・・。目ん玉取り出じで洗いだい・・・。
 ぞおいえば、ナナキは大丈夫なの?」
ナナキは鼻をひくひくして、辺りの匂いをかいだ。
「花粉症のこと?みんな辛いみたいだね・・・。オイラは全然平気だよ。」
にこりと笑う、ナナキが羨ましかった。
ふと、嫌な考えが頭に浮かぶ。
「今日の任務は、ゴンガガ南東で敵の技を取得してくること。」
と、クラウドが目を赤くしながら言ってなかっただろうか?
ゴンガガ南東というと、スギ、ブタクサ・・・・。花粉オンパレードだ。
クラウドが外出不可能の理由はこれだったのか。
ユフィはため息をつきながら、トボトボ歩いていく。
「ぞうが・・・・だがら、今日はごんなに目ががゆいんだ・・・。」
「どうかしたのか?」
振り向くヴィンセントの顔もまともに見れず、ユフィはゴシゴシと 目をこする。
「がゆい・・・・。がゆいよぉ〜〜〜〜〜!!」
風を恨むユフィ。鼻詰まりと赤く腫れる目。まさに二重苦。
敵との戦闘もなかなか思うようにいかない。
いつもなら、自分がとどめをさせるような敵も、今日は攻撃をしかけても
よけられてしまう。
おまけに、二人の足を引っ張っているようだった。
「ごべんよ・・・。」
べそをかき、鼻をすするユフィ。
「気にするな。それより、お前何を言いたいのかわからないぞ。」



そして、時は流れあっというまにゴンガガ南東。
「うっ!!」
思わず目を覆いかくすユフィ。
「見てみろ。」
ヴィンセントはユフィの腕を掴み、無理矢理、先頭へ連れてきた。
「ぎゃっ!!」
嫌がるユフィが目を開いた所には、色とりどりの花達で埋め尽くされていた。
「ご・・・・・ごれは・・・?」
ヴィンセントはゆっくりと、花の中に座った。
ナナキが飛んでいる蝶を犬のように追いかける・・・。
「大丈夫か?」
ユフィはぎゅっと目をつぶる。甘い香りが鼻に広がる。
「が、がゆい・・・。」
「見せてみろ。」
静かにヴィンセントが呟くとユフィは首を横に振った。
「やだ・・・・。がゆい〜〜〜。」
じたばたと暴れるユフィをヴィンセントが制した。
「大丈夫だ。見せてみろ。」
ユフィはゆっくりと目を開けた。その瞬間、目に映ったのはヴィンセントの顔だった。
「!!!!」
間近なヴィンセントの顔に驚きを隠せないユフィ。
そんな、ユフィを気にも留めないヴィンセントは、まじまじとユフィの目を見つめた。
(〜〜〜〜っっっ!!)
ドクンという音が響く。それが、体中に広がり熱くし、顔が赤く火照る。
ヴィンセントは深くため息をついた。
(・・・・え?)
「スギ花粉のアレルギーだな。この薬を飲んでおけばよくなるだろう。」
と、ヴィンセントはマントの内側から小さな薬瓶を取り出した。
薄緑色の怪しい液体が半分程、入れられていた。
「な・・・・」
「花粉症の為に作られたものだ。事実、これを飲んで5分後には効果が
 表れるらしい。」
「で・・・・でぼ、なんでごんなぼの?」
薬瓶を受け取ると、コルクの栓を抜いた。瓶の中から甘酸っぱい匂いが広がる。
「ごれ、ぼんどうにのべるの?」
「大丈夫だ。」
ユフィは瓶をしばらく眺めると一気に、中の液体を飲み干した。
「・・・うっ」
苦いというより、甘すぎて気持ちが悪く、すっぱいものが混じっている。
なんか、どろどろしていてとても薬とはいえない。
「こんなの飲んでよくなるの?」
「効果はすぐに表れる。」
ヴィンセンントはゆっくりと立ち上がり、花畑の方へ向かって歩いていった。
ユフィはすぐに後を追おうとして、タンポポのロゼットにつまずいた。
着地に失敗したのか、ユフィは蝶を追いかけるのに飽きて寝そべっているナナキの
やっと炎が灯り始めたナナキの尻尾を踏んでしまった。
「痛〜〜〜い!!!」
「あっ!!ごめ・・・ごめん。気づかなかったよ・・・。」
ナナキは一瞬眉をよせて、ユフィを睨んだがはっと気づいたように顔をあげた。
「あれ?ユフィどうしたの?鼻詰まりは?」
「え?」
ユフィはナナキに言われて気が付いた。自分が普通にしゃべれていることを。
「あ・・・あれ?どうしてだろ・・・。」
鼻はスッキリと息も通り、目は花畑にいるというのにちっともかゆくない。
全てヴィンセントがくれた薬のおかげであった。
「え?ヴィ・・・。ヴィンセント〜!!」
数メートル離れた所で、元気になったユフィを見て 小さく微笑むヴィンセントの姿があった。
ユフィが飲んだ薬は、ヴィンセント本人が作りあげたものだった。
昨日、ユフィの鼻詰まりの声とくしゃみを聞いて、誰も起きていない早朝に 調合したのだ。
「あ!ありがと!ヴィンセント。この薬すごいねっ!!これならクラウドも
 治るんじゃない?」
ヴィンセントは少し、。
ユフィはヴィンセントが自分の為に作ってくれたことなど、全く知らないのだ。
言ったとしても鈍感なユフィは、これがどういう意味か理解できないだろう。
死んでも、お前の為だけに作った。なんてことは言えない。


ヴィンセントは、ぴょんぴょん飛び跳ねるユフィを無視して 先へと急いだ。
「え・・・ちょ、ちょっと!お〜い!!ナナキ〜〜〜!!置いてくよ〜〜。」
色とりどりの花畑にユフィの少女らしい声が、響き渡る。
それを、聞いたナナキは慌ててドスドスと走ってくる。走ってきた所が、平らになって
道をつくっていた。
「ねぇヴィンセント!!ねぇってば!!」
すっかり元気になったユフィを見て、マントの下で再び小さく微笑む。



やっぱり春はいいな。としみじみ思うヴィンセントであった。





魔法の薬
ごめんなさい・・・。久々の小説ヴィンユフィです。
この前、リクエストで募集したところ・・・花粉症の話がでていたので。
結構、話の構成に苦労しました。またもや積極的なヴィンセント(笑)
私は今年そんなにひどくありませんが、みなさまはどうでしょう?
別れ・出会いの春。こんな話が本当ならば、ヴィンセントと同じく
春はいいかもです♪